一杯のコーヒーの背後には、それを支える人の数だけ物語があります。
やまのべ焙煎所では、焙煎士やスタッフ一人ひとりの手仕事と情熱が、日々の味わいをつくり出しています。
本インタビュー企画では、焙煎所のメンバーにスポットライトを当て、その歩みや想いをお届けします。
今回は、鍼灸師から焙煎士へキャリアチェンジをした異色の経歴の持ち主である三戸照伸さんにお話を伺いました。
15年続けた鍼灸師から、コーヒーの世界へ
これまでずっと、鍼灸師として働いてきました。大学卒業後からなので、15年ほどになります。
コーヒーを飲み始めたのは大学生の頃からですが、本格的にハマったきっかけは、スペシャルティーコーヒー店のHIROFUMI FUJITA COFFEE(大阪・玉造)との出会いでした。
ここのコーヒーのおいしさに感動したのもありますし、賑やかなカフェというより、ちょっと渋い雰囲気のコーヒー専門店が自分の好みということもあって、よく通っていました。
抽出の奥深さからコーヒーにはまり、だんだん焙煎にも興味がでてきて家で手網焙煎を試してみたこともあります。うまくいかない中で、「プロってやっぱりすごいな」と改めて思ったのを覚えています。
大切な人の死が、背中を押してくれた
コーヒーを仕事にしたいという気持ちは、ずっと心のどこかにありました。
でも、鍼の仕事も好きでしたし、なかなか踏み出せずにいたんです。
そんなとき、3歳上の兄が突然亡くなりました。
「人生って、いつどうなるかわからないな」「後悔のない選択をしたい」そう思うようになり、本気でコーヒーの道に進む決意をしました。
鍼灸の仕事を続けながら、Barista Map Coffee Roasters(大阪・心斎橋)でトレーニングを受け、開業に向けて準備を始めました。
焙煎士の募集を見た“偶然”と“覚悟”
そんなある日、たまたまYouTubeで大一電化社の焙煎士募集の動画を見かけました。
すでに鍼灸師として次の職場も決まっていたタイミングだったので、正直かなり迷いました。
若手を優先して採用するという話だったので、当時37歳の自分には厳しいかも…と感じていましたが、「チャレンジして落ちるのと、チャレンジすらしないのは違う」と自分に言い聞かせ、選考に進みました。
まだ選考中だった段階で、次の職場にお断りを入れたので、もし落ちていたら無職になるところでした(笑)。
だからこそ、今こうして焙煎士として働けていることが、すごくありがたくて幸せです。
週末には副業として今でも鍼灸の仕事を続けていて、自分の“好き”をどちらも大切にできていると感じています。

焙煎がない日は、何していいか迷うんです
普段のお仕事は基本的にほとんど焙煎になりますが、オリジナルブレンドやドリップパックの制作依頼に対して、お客様とやりとりをしたり提案もさせていただいてます。
焙煎がない日は逆に「何しようかな…」って戸惑うくらい、日々コーヒーと向き合っています。
生豆ってすごく重いので、焙煎は体力仕事でもありますね。バケツで豆をギーセンに移すときは7kg以上あるので、自然と筋肉もついた気がします。
焙煎の幅を、もっと広げていきたい
入社して8ヶ月ほどになりますが、今後はもっと焙煎に“幅”を持たせていけたらと思っています。
もちろん品質を安定させるために「型」が必要な場面もあるのですが、それにとらわれすぎず、やまのべの味を守りながら新しいアプローチにも挑戦したいです。いま使っている焙煎プロファイルも、少しずつアップデートしてより良い味を届けられるようになれたらと。
トレーニングを受けていたとはいえまだまだ経験も浅いですし、技術も知識も、もっともっと向上していきたいです。
「勝てる焙煎」を、目指す意味
将来的には、焙煎の大会(JCRC)にも挑戦してみたいと思っています。
正直、経験や年齢的に「箔をつける」意味もあるかもしれませんが、それだけじゃなくて、やっぱり大会に出ることで得られる技術や視点があると思うんです。
大会の結果がすべてではないと思っていますし、「評価される味」と「自分が本当においしいと思う味」はまた別物。でも、狙った味を出すための技術をもっていることが焙煎士としての本質なのかなと。
トレーニングで通っているBarista Mapの深山晋作さんもJCRCに出場されていて、「勝てる焙煎」を目指す姿にすごく刺激を受けています。
深煎りの魅力をもっと伝えたい
やまのべブレンドでおすすめなのは、深煎り。
今、ギーセンで深煎りを焼いていることもあって、やっぱり深煎りには思い入れがあります。
スペシャルティ界隈では浅煎りが主流ですが、深煎りには深煎りのおいしさがある。
実際、一番売れているのは中深煎りで、オリジナルブレンドの発注も中深煎りがかなり多めですが…
でも、それに加えて「深煎りもこんなにおいしいよ」って、もっと伝えられたらいいですね。

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