やまのべ焙煎所は、 エスプレッソマシンのプロフェッショナル「大一電化社」が手がける直営焙煎所です。

経験と情熱が拓く新たなコーヒーの道|焙煎部マネージャー 松本 雄介 

一杯のコーヒーの背後には、それを支える人の数だけ物語があります。
やまのべ焙煎所では、焙煎士やスタッフ一人ひとりの手仕事と情熱が、日々の味わいをつくり出しています。
本インタビュー企画では、焙煎所のメンバーにスポットライトを当て、その歩みや想いをお届けします。
今回は、バリスタ・バーテンダーなどで多彩な経歴を持つ焙煎部マネージャー・松本雄介さんにお話を伺いました。

高校時代は弓道に打ち込み、国体にも出場しました。大学からも複数のスポーツ推薦のお話をいただきましたが、家庭の事情で進学は断念。親のすすめもあって警察官の道に進みました。

ただ、どうしても自分には合わなかった。バリスタを選んだのは警察を辞める口実でもありましたが、ともに頑張ってきた同期を裏切ることになる以上、「どうせやるならちゃんとやりたい」と決意。大手カフェチェーンからキャリアをスタートしました。

現場でスキルと経験を積む日々

バリスタとしてセミオートマシンやドリップの基礎を身につけたのち、接客やサービスの幅を広げるために五つ星ホテルへ。所作や言葉づかい、細やかな気配りを超一流の現場で学び、さらに経験の幅を広げていきます。

  • クイックサービスが強みのイタリアンバールで、スピード感ある接客とバリスタスキルを強化
  • 調理専門学校で、料理から製菓まで幅広い知識を体系的に習得
  • バー併設のレストランでフルサービスやワインを学び、バーテンダーとしても経験を積む
  • ラテアートの大会に挑戦し、全国・世界の舞台で入賞
  • 店長として、店舗立ち上げから運営、スタッフマネジメントを実践

飲食の現場で経験できることは、ほぼ一通りやってきました。警察を辞めるときに決めた「本気でやる」を、現場で徹底して実行していたと思います。

私生活もストイックでした。朝から晩まで働いたあとも分刻みで副業に没頭。わずかな休みも学びや実践にあて、自分を限界まで追い込み続けていました。
一方で、飲食業界の構造的な厳しさである「頑張っても報われにくい」という現実にも直面し、「飲食から離れたい」と思う時期もありました。

広がる役割 —— 現場感覚を武器に

今の仕事との転機は、バリスタの大会で出会った専務からの誘いでした。地元・奈良へ戻る意向を伝えると、「会社を手伝ってほしい」と声をかけていただき、大一電化社に入社。コーヒーマシンの営業として全国を飛び回る日々が始まりました。

当時の会社には家電販売店の名残があり、マニュアルやWebサイトには「業者目線」が色濃く残っていました。そこでバリスタの視点を活かし、現場スタッフにも伝わる表現へと刷新していきました。社内ワークショップを重ねて現場感覚を共有し続けた結果、「バリスタがマシン営業を担う現場主義」という独自のスタイルが育ち、現在の会社の強みにも繋がっていると思います。

やまのべ焙煎所の立ち上げ以降は、それまでの経験をベースに、焙煎とマネジメントが業務の中心となりました。

焙煎所の成長 —— OEMとPBで広がった領域

カフェ開業を目指すお客様の「美味しいコーヒーを提供したい」に応えるため、マシンだけでなく高品質なコーヒー豆も提供したい——その思いから焙煎所事業が始まりました。まずは焙煎度別に設計した「やまのべブレンド」の販売戦略が課題でした。見込み顧客はあるとはいえ、コーヒーショップが溢れる市場で、提案すれば必ず売れるわけではありません。

そんな折、OEM焙煎のご相談をいただき、これが大口契約へと発展。その後も取引が広がって売上は安定しました。さらにプライベートブランド(PB)の依頼も増加し、焙煎所の立ち上げから6年を経た現在では、OEMやPBが大きな割合を占めています。

お客様のご要望に向き合い続けた結果、当初の想定を超えるかたちで事業が伸び、焙煎士も増えて体制に余裕が生まれました。今はお客さまの求める味づくりに、より的確に応えられていると実感しています。
振り返ると、現場目線の提案と改善の積み重ねが、現在の体制強化と品質向上の土台になったと考えています。

好きなブレンドと、これからの挑戦

やまのべで好きなブレンドは気分で変わりますが、アイスコーヒーが好きなので、最近は浅煎りを手に取ることが多いです。会社ではコーヒー単体での検証が中心ですが、プライベートではペアリングを意識しています。

  • チョコレートケーキには中深煎り
  • さっぱりしたデザートには浅煎り
  • フルーツ系のタルトなら、むしろ紅茶のほうが合うことも

ただ、最終的に大切なのは「本人が美味しいと感じられるか」。難しく考えすぎる必要はありません。

今後は、生豆の卸売・販売を拡大したいと考えています。現在もお問い合わせベースでの販売はありますが、体制としてはまだ本格化していません。
Stronghold(ストロングホールド)焙煎機の販売も伸びており、継続的にお問い合わせもいただいているため、マシンと生豆を合わせてご提案できる仕組みを整えたいと考えています。こちらも需要に応えかたちとなりますね。 

ラインナップは国ごとに1銘柄を決め打ちするなど、シンプルで選びやすい構成を構想しています。私も個人で焙煎していた頃に思ったのですが、選択肢が多すぎると、かえって選びにくくなることがあるからです。

もちろん計画が想定通りに進むとは限りません。むしろ、取り組むうちに視座が上がり、当初の想定とは違う方向に進むことのほうが多い。だからこそ「どうせやるなら、ちゃんとやる」。この姿勢だけは、これからも変えずに大切にしていきたいと思います。

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